相続法大改正を分かりやすく解説

相続・遺言

相続法大改正を分かりやすく解説

2018年7月改正となった相続法が、2019年7月1日~2020年7月10日にかけて施行されました。この改正は「高齢化の進展など社会環境の変化に対応すること」に焦点があり、例えば残された配偶者が安心して残りの人生を送れるようにするための方策などが導入されました。また、その他にも主要な改正がございました。今回は、約40年ぶりとなるこの相続法改正について解説させていただきます。

相続に関して主な改正点は8つ!

今回の相続法大改正に関して主要な改正点は以下の8つです。
①配偶者居住権の創設
②遺産分割の見直し(婚姻歴20年以上の配偶者間の自宅贈与・遺贈の優遇)
③遺産分割の見直し(遺産分割前の預貯金の払い戻し)
④遺産分割の見直し(遺産の使い込みによる不公平分割への対処)
⑤遺留分制度の見直し
⑥遺言書の見直し
⑦特別の寄与の制度の新設
⑧遺言による法定相続分を超える部分について、対抗要件としての登記が必要

上記8つの主要な改正点について、今回は①~⑤及び⑦について解説させていただきます。(⑥についてはこちらをご参照下さい➡遺言書の種類・書き方について!!

①配偶者居住権の創設

配偶者居住権は、他方配偶者の死亡(被相続人)により残された配偶者(相続人)が、以前と同じ生活の場を確保できるようにするための権利です。改正前は、不動産以外に遺産があまりない場合、被相続人が所有していた自宅を売却して遺産分割の資源としなければならないケースが多かったのです。
そうなると残された配偶者は慣れ親しんだ居所を失い、安定した生活を送ることが困難な状況になってしまう可能性が高くなってしまいます。
そこで、今回の改正では2つの居住権が創設されました。
(1)配偶者居住権
配偶者居住権とは、相続が開始した時に被相続人の所有していた住宅に居住していた場合に、その住宅を引き続き無償で住み続けることができる権利であり、原則的に終身です
ただし、この権利を得るためには以下のどれか1つの要件を満たさなければなりません。
①遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
③被相続人と配偶者との間に、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約(自身が死亡したら相手方に約束した財産を贈与する契約を生前に行うもの)があるとき

この要件のどれかを満たした場合、配偶者は居住権を取得でき、他の相続人は負担付きの所有権を取得することができます。(負担付きの所有権を他の相続人に取得させることにより遺産分割のための売却を防ぐことができる)
この配偶者居住権は、自宅に住み続けることができる権利ですが所有権ではないので、人に売ったり、自由に貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます(居住用のため事業性がないためですね)。このため、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産もより多く取得できるようになり(法定相続分の取り分に余剰ができやすくなるため)、配偶者のその後の生活の安定を図ることができます
(2)配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、相続が開始した時に被相続人の所有していた住宅に居住していた場合に、「相続が開始した日から6ヶ月を経過する日」又は、「遺産分割協議が成立した日」のどちらか遅い日まで、配偶者は当該不動産に無償で住み続けることができます
これは、配偶者が被相続人と伴に住み続けていた住居に最低6ヶ月間は住み続けられるようにするための制度です。この制度は他方配偶者が亡くなってすぐに、残された配偶者が住む家を失うことのないよう、また故人を偲べるように配慮した制度と言えるのではないでしょうか。

②~④遺産分割の見直し

(1)婚姻歴20年以上の配偶者間の自宅贈与・遺贈の優遇
改正前は、婚姻歴20年以上の配偶者間での居住用不動産の遺贈又は生前贈与の場合でも、遺産の先渡しとして相続開始時にその遺産の先渡し分を持ち戻して(相続財産に入れて)相続税の課税対象とされていました(このことを特別受益と言います)。
これが改正により、遺産の先渡しとして扱わないこととなり、相続財産のとして加算の対象外となり、より多くの遺産を配偶者に残せるようになりました。
(2)遺産分割前の預貯金の払い戻し
改正前は、被相続人の預金口座は凍結されてしまい、相続人全員での遺産分割協議が成立しないと預金の引き出しができない状態でした。
これが改正により、遺産分割協議成立前でも葬儀費用や当面の生活費等に限り凍結口座から仮払いしてもらうことが可能になりました。方法としては2つあります。
①家庭裁判所に仮分割の仮処分の申し立てをする
②金融機関の窓口で直接依頼する
※①は時間と費用がかかるので通常は②の方法によると思います。②では自らの法定相続分の3分の1又は同一の金融機関で上限150万円まで仮払いを受けることができます。(同一金融機関とは全支店合計でという意味です)
(3)遺産の使い込みによる不公平分割への対処
改正前は、遺産分割の対象となる財産は分割時に残っている遺産のみでした。分割前に一部の相続人に使い込まれてしまった遺産については、別途、不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを起こさなければなりませんでした。
これが改正により、使い込みを行った相続人以外の相続人全員の同意があれば、裁判所は遺産分割審判において使い込みがなかったもの(つまり使い込んだ遺産も遺産分割の対象となる)とすることができるようになりました。

⑤遺留分制度の見直し

改正前は、遺留分を侵害された法定相続人は「遺留分減殺請求権」を行使して、相続財産に対する侵害額相当の返還請求ができました(遺留分とは一定範囲の法定相続人に認められた一定割合の相続財産のことです)。
遺産としては、金銭に限らず不動産や動産など多岐にわたりますが、金銭以外の遺産に遺留分減殺請求をかけると、その遺産は共有状態(例えば自動車なんかは分割しようがないですよね)となってしまい権利関係が複雑化していました。共有状態ですと売却するのも結構大変なんですよね。
これが改正により、「遺留分減殺請求権」改め、「遺留分侵害請求権」となり、侵害された法定相続人が請求できるのは「侵害額に相当する金銭」と定められました請求できるのが金銭となり、上記のような共有状態を回避できるようになりました。

 

⑦特別の寄与の制度の新設

この制度の新設前にも似たような制度がありました。「寄与分」という制度です。寄与分とは共同相続人のうち、被相続人の財産の維持又は増加について特別の貢献をした相続人に、その貢献に応じ、法定相続分に寄与分(貢献分)を加えて財産を取得させる制度です。
この制度の問題点が、法定相続人じゃないと寄与分を受けることができなかった点です。
例えば、法定相続人の妻が法定相続人の両親の介護や事業の手伝いをしていたとして、その両親が亡くなって被相続人となった場合、その妻は被相続人からみた法定相続人ではないため、寄与分として遺産を分けてもらうことができませんでした。
これが改正により、「特別の寄与」の制度が新設され、法定相続人以外の者でも一定の条件のもと、寄与分を受け取れるようになりました。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は、約40年ぶりとなる相続法大改正について解説させていただきました。
大改正なので、すべてを詳細に記載してご説明しようとすると膨大な情報料になってしまいますので、ここではできるだけ簡潔に述べさせていただきました。
相続関係は相続税との兼ね合いで考えなければならない場面も多いのですが、相続税に関しては税理士の管轄となりますのでここでは割愛させていただいております。
相続税以外のことでお困りのことがございましたら、お気軽に弊所にご相談下さい。(相続関係の料金表・詳細についてはこちらから相 続・遺 言